工房について
土と火は、岐阜県の山あいにある小さな陶芸工房です。夫婦二人で、粉引と灰釉の日常器をつくっています。大量に焼くのではなく、月に一度の窯焚きで、そのときに必要な数だけを焼きます。
工房と窯の話
この場所に工房を構えたのは、今から十四年前のことです。もともとは農作業の納屋だった建物を、少しずつ直して使っています。土間には薪窯が一台。窯のまわりには、釉薬の原料を入れた壺と、粉引用の白土の袋が並んでいます。冬は窯の熱でありがたく、夏は窯の前で汗を拭いながら、焼き上がりを待ちます。
窯焚きは月に一度、二日がかりです。前日の夕方に火を入れ、夜通し温度を見ながら薪をくべます。翌日の午後、窯の口を開けると、灰が器の肩に降りて、緑や飴色の模様になります。灰の当たり方は毎回違い、同じ釉薬でも、まったく同じ器は二つとできません。そこが灰釉の面白さであり、難しいところでもあります。
粉引は、白土を水で溶いた白化粧を、素地に何度も重ねてから焼きます。厚くかけすぎると剥がれ、薄すぎると地の色が出る。指先で厚みを確かめながら、一枚ずつ化粧をしていきます。器のふちにうっすらと透ける土の色は、この作業の跡です。
道具の話
ろくろは電動のものを一台と、手回しのものを一台。手回しのろくろは、小皿や湯呑みのような小さな器に使います。回転がゆっくりなので、形の歪みが少なく、指の感覚が伝わりやすいのです。削りには、使い込んだ鉋と、自作の竹べら。竹べらは、庭の竹を割って、やすりで形を整えたものです。市販の道具のほうが便利なこともありますが、手になじんだ道具は、やはり手放せません。
釉薬は、灰、長石、土灰を調合してつくります。配合は紙のノートに手書きで残しています。窯の調子や季節によって、少しずつ配合を変えるためです。このノートは、工房の一番古い道具かもしれません。
器について
私たちがつくるのは、特別な日のための器ではなく、毎日の食卓で使う器です。軽くて、重ねやすくて、洗いやすいこと。そして、使い続けるうちに、少しずつ景色が変わっていくこと。粉引の白が飴色に馴染み、灰釉の緑が深くなる。そういう変化を楽しんでいただけたら嬉しいです。
作品は販売していません。見学にいらした方に、実際に手に取っていただくことを大切にしています。器の重さ、口当たり、裏の削り。写真では伝わらない部分を、ぜひ確かめてください。